2019年8月、ソニーは国内初となるメガワット級太陽光発電の自己託送に向けて大きな動きを見せた。太陽光発電などのクリーンエネルギーがビジネスへの影響力を高めるなか、再生可能エネルギーでの自家発電と自家消費は有力な手段になる。
その一方で、発電システムを設置できる場所と、エネルギー消費場所が違うという課題がある。工場や支店の立地により、太陽光発電を設置するスペースが取れるケースと、そうでないケースが出てくるだろう。太陽光に恵まれたエリアで使いあました電力を自社の別店舗、別工場に融通すれば、自社全体での再エネ化が促進できるのだ。
こうして電力を柔軟に使うための制度が、「自己託送制度」だ。
この記事では自己託送制度がどういったものか、メリットやデメリット、活用事例を紹介する。自家消費型の発電システム導入を考えている方は、ぜひ参考にしてほしい。
自己託送制度とは?
自己託送制度を利用すれば、これまで売電していた電力を自社の施設で自家消費できるようになる。ただし、適用要件があるため、ここで確認しておこう。
発電設備から離れた場所で自家消費できる
自己託送とは、太陽光などで自家発電した電力を電力会社の送電設備を利用して、他の施設に送電するサービスだ。発電して余った電力を売電するのではなく、自社の他の施設に供給することで、会社全体のCO2排出量を削減することも可能になる。
自己託送制度を使うための条件
自己託送制度を使うための条件は以下の3つだ。
- 電力を販売する目的ではないこと
- 契約者と発電者、電力の供給先が同じ会社の施設であること
- 同じグループ企業の施設など、密接な関係があること
余剰電力を自己託送している企業や自治体の事例
実際に自己託送制度を活用して、自家消費量を増やす取り組みをしている企業や自治体の事例を紹介する。
日新電機:研修施設で発電した余剰電力を離れた施設へ
京都市に本社を置く住友グループ電気機器メーカーの日新電機は、研修施設で発電した電力を施設内で自家消費している。研修施設における再エネ比率は37.2%と高い水準になっている。
しかし、休日は電気が余ってしまうため、自己託送制度を利用して、余剰電力を本社や離れた工場へ託送する実験を開始した。この取り組みにより、再エネ比率が53.2%まで高まることが見込まれる。
自己託送しない場合と比較して、約1.5倍の環境負荷を削減し、CO2の排出量削減を4倍に増やせるという。
八王子市:清掃工場で発電した余剰電力を本庁舎へ
東京都八王子市では、2018年8月から戸吹清掃工場のゴミの焼却により発電した電力を、本庁舎など5つの施設へ託送する取り組みを始めた。ベースとなる電力を託送による電力でまかない、不足した分のみ電力会社から購入する形だ。
自己託送に切り替えたことで、2018年度は400万円以上、2019年度以降は年間1000万円以上の経費が節約できる見込みとなっている。
企業が自己託送制度を活用するメリット
自己託送制度の活用は、企業にとって電気料金の削減や、再エネ促進などのメリットがある。この項では、そのメリットについて解説していく。
電力コストを抑えられる
自己託送制度を活用して会社全体の自家消費量を増やすことで、電気料金を抑えられる可能性がある。
今後は電気料金が高くなると予想されているが、自己託送は高騰する電力コストを抑えるための対策になる。固定価格買取制度の期間満了後、売電から自己託送へ切り替えることで、電気代を節約することができるのだ。
環境問題の改善に貢献できる
再エネ化を進めるにあたり、多く企業が施設内で発電した電力を使い切れていない実情がある。
しかし、自己託送を活用することで、日新電機や八王子市の事例のように休日に発電した余剰電力をほかの施設に回し、無駄なく使うことが可能となる。特に、太陽光発電は発電中に温室効果ガスを排出しないため、環境問題の改善にも貢献できる。
世界的に環境負荷への取り組みを企業に求める流れがあり、日本の企業も対応を迫られている。たとえば、再エネ化を急速に進めたアップル社は、取引先を選ぶ基準に再エネ化への取り組みを挙げた。
企業経営の視点からも再エネ化を進めるにあたり、自己託送制度はぜひ活用したい制度だ。
自己託送のデメリットは? 利用料やエネルギーマネジメントに注意
自己託送を利用するには、電力会社の送電サービス料金がかかる。また同時同量を守れないとペナルティがある点にも注意が必要である。
送電サービス料金がかかる
自己託送の送電サービス料金は二部料金または完全従量料金からの選択制となっている。
単位 | 単価(税込み) | ||||
高圧(円) | 特別高圧(円) | ||||
標準接続送電サービス | 基本料金 | 1kW | 615.60 | 372.60 | |
電力量料金 | 1kWh | 2.44 | 1.46 | ||
時間帯別接続送電サービス | 基本料金 | 1kW | 615.60 | 372.60 | |
電力量料金 | 昼間 | 1kWh | 2.72 | 2.10 | |
夜間 | 1kWh | 2.06 | 0.62 | ||
従量接続送電サービス | 電力量料金 | 1kWh | 12.53 | 7.57 |
「同時同量」を守るエネルギー管理を行う
電力会社の送配電ネットワークを利用するには、送電する電力量を事前に決めておく必要がある。送電量が不足した場合は「負荷変動対応電力料金」という一種のペナルティを支払わなければならない。
太陽光発電の場合、発電量を事前に予測することが難しいため、これまで誤差の大きい大規模な送電が行われてこなかった。しかし、発電量の予測精度が上がったことや制御システムの導入などにより、発電、託送、需要の同時同量も可能となってきている。
自己託送制度で自家消費&再エネ化を実現!
自己託送制度の活用により、電力の自家消費や再エネ化を促進できる。発電量や電力需要のマネジメント技術が高まり、太陽光発電のような発電量が一定でない電力も自己託送制度に活用されはじめた。自社の複数施設で自家発電をしたいなら、自己託送制度の活用も含めて発電システムを検討するとよいだろう。
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