産業用太陽光発電

太陽光発電に投資する際、利回りの数字をチェックするだけでは不十分だ。利回りには想定表面利回りと実質利回りがあり、両者の違いを把握する必要がある。さらに、イニシャルコストとランニングコストの把握も重要だ。

この記事では、産業用太陽光発電の投資を始める際のポイントについて、くわしく解説する。具体的には、2つの利回りと計算法、イニシャルコストとランニングコスト、一般的なシミュレーションの算出方法、工場や施設に設置した場合の自家消費パターンのシミュレーションなどについて説明する。

産業用太陽光発電のシミュレーションのポイントとなる利回り

産業用太陽光発電のシミュレーション

利回りとは投資金額に対する収益の割合を指す。太陽光発電システムのコストに対してどれほどの利益が得られるかを見極める指標となるものだ。
この段落では、産業用太陽光発電投資のポイントとなる2つの利回りについて解説する。

大まかな収益指標を表す【表面利回り】

想定表面利回りとは、大まかな収益の指標を意味し、「年間売電収入÷初期投資費用×100」という数式で計算する。

たとえば、1年間の売電収入300万円、初期費用3000万円だったとしよう。この場合の想定表面利回りは「300万円÷3000万円×100=10%」となる。

注意しておきたいのは、想定表面利回りが太陽光発電設備以外のコストを含めずに算出される数値ということだ。他のコストを含めて算出する実質的利回りは、必ず、想定表面利回りよりも低くなる。

すべての費用を考慮する【実質利回り】

投資を始めるにあたっては、すべてのコストを考慮した実質的利回りも試算することも重要だ。実質的利回りは次の計算で求められる。

(年間売電収入-年間支出)÷初期費用×100=実質的利回り

実質的利回りを正確に計算するためには、初期費用(イニシャルコスト)と年間諸経費(ランニングコスト)の内容をすべて把握しておく必要がある。一般的に実質的利回りは想定表面利回りよりも2~3%低い数値となる。

下記の表は、資源エネルギー庁がまとめた資料をもとに、太陽光発電投資のシステム費用の目安を設備の規模別に分類したものである。

太陽発電設備の規模システム費用の目安
10~50kW32.7万円/kW
50~500kW30万円/kW
500~1000kW29.5万円/kW
1000kW以上28.7万円/kW

このように、太陽光発電設備の規模が大きくなるほど、システム費用は安くなっていることがわかる。

シミュレーションに必要なイニシャルコストを把握する

イニシャルコスト

産業用太陽光発電のシミュレーションで正確な数値を算出するためには、イニシャルコスト(初期費用)の内容を把握しておく必要がある。イニシャルコストとは太陽光発電の事業をはじめるまでにかかるすべての初期費用であり、その一般的な内訳をご紹介しよう。

太陽光発電パネル、パワーコンディショナなどシステム設備費用と施工費用、土地の造成費用や電力負担金は必須だ。土地付き太陽光発電など、パッケージ化された投資物件を買うときは、購入費用に含まれているものを確認しよう。

経産省への事業計画申請など、各種申請を代行してもらうなら、その費用も発生する。

さらに、土地の費用も必要だ。自前の土地なら新たな費用はかからないが、新たに土地を取得するなら土地代や不動産会社への仲介手数料、司法書士への報酬などがかかる。

シミュレーションに必要なランニングコストを把握する

産業用太陽光発電のシミュレーションで正確に計算を行うためには、売電開始後に発生するランニングコスト(年間の諸経費)についても正しく把握しなければならない。ランニングコストには一般的に以下の項目が含まれる。

まず、太陽光発電設備のメンテナンス費用やパワコンを買い替える費用がかかる。それから、固定資産税や償却資産税も発生する。

太陽光発電投資に関連する保険も考えておこう。太陽光投資の保険は、システム設置時の施工に問題があった場合の補償や、火災・自然災害時に補償を受けられるように加入するものだ。

 

他には、ローンで設置した場合の金利やパワコンの電気代、草刈りや遠隔監視システムの費用なども発生する。

シミュレーションに影響する要素は主に3つ

3つ

産業用太陽光発電の収支シミュレーションに影響を及ぼす要素としては日射量・自然災害・ローン金利の3つがある。収支シミュレーションで正確な値を算出するためには、すべての金額を正しく把握しておく必要があるため、それぞれについて以下で解説する。

発電量に比例する日射量

発電量は日射量に比例して増減するため、太陽光発電設備を設置する場所の日射量がどのくらいあるのかを把握することが重要である。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公開している日射量データベース閲覧システムを利用すれば、全国837カ所における日射量の目安を知ることができる。

ただし、実際の日射量は土地の角度や形状によっても異なる場合があるのだ。そのため、設置する現地に出向き、太陽光発電設備に影響を及ぼしそうな木や山などがないかなど、状況を把握しておくことが大切といえる。

数字に大きく影響する自然災害

太陽光発電所の稼働を開始後、風雪や落雷といった自然災害によって太陽光発電設備が故障し、発電ができなくなるケースも起こりうる。その場合、稼働前に行ったシミュレーションの数字と実際の売電量にギャップが生じる。

電力会社の明細をチェックすれば太陽光発電設備の不具合がわかるが、一般的に、明細が送られてくるのは1カ月に1回程度だ。したがって、最悪のケースでは1カ月以上も故障に気が付かず、発電が停止した状態が続く可能性がある。

そこで、太陽光発電設備に故障や不具合があった場合、すぐに気づくことができるよう、遠隔管理システムを導入することがリスクを回避するためのポイントといえる。遠隔管理システムを利用すれば1時間ごと・1日ごとの発電量も確認できる。

チェックの手間を削減するには、異常時のアラート機能にも対応した遠隔管理システムを利用しよう。

太陽光発電の融資の金利は

50kW以上の太陽光発電を設置するには、千万〜数千万円の費用がかかる。設置にあたっては金融機関から融資してもらうケースが一般的だ。

融資の金利は借入先や借入時期などによって差があり、収支シミュレーションの数字にも影響する。

たとえば、1500万円を15年間借り入れるとしよう。金利が2%なら利息総額は237万円程度となる。一方、金利が1%であれば利息総額は115万円程度に抑えられる。15年間で100万円以上も返済額が違ってくるのだ。

融資によって異なる金利の違いが、収支シミュレーション結果に大きな影響を及ぼすことも考慮する必要がある。

収支シミュレーションを実際に検証

この段落では設備費用の融資を受けて太陽光発電投資を始めた場合のシミュレーションを紹介する。試算する条件は以下の通りである。

パネル容量90kW(低圧の太陽光発電)
土地300坪(自己資金)
2019年の売電価格(税込)15.40円/kWh(消費税10%)
20年間の予想発電量合計約200万kWh
システム、設備代金や施工金額に含むものフェンス設置費用・各種申請代行費用・メーカー保証(メーカーにより保証期間が異なる)・10年災害補償(動産総合保険)・20年無料定期点検費用

収入を計算しよう

固定価格買取制度により、20年間、同じ単価で売電収入が得られる。
15.40円/kWh×200万kWh=3080万円となり、20年間の売電収入は3080万円と計算できる。

次に、支出を計算しよう。内訳は次の通りだ。

自己資金400万円(内訳:土地代200万円(概算)・整地代60万円(概算)・電力
借入金額総額1200万円
借入金利息合計(金利2.15%・返済期間15年の場合)200万円
20年間の経費350万円(内訳:夜間のパワーコンディショナ稼働にかかる電気代50万円・パワーコンディショナの交換費用200万円(15年間)、20年間の償却資産税100万円)

以上を合計すると、20年間の支出は2150万円と計算できた。

その他、初期投資など課税取引した分の消費税が還付される金額として、収支に60万円を加算できる。

以上の収支を合計すると、3080万円-2150万円+60万円=990万円となり、20年間の実質的収入は990万円と算出できた。また、1年あたりの実質的収入は49万5000円という計算だ。

工場に自家消費型太陽光発電した場合どれくらいお得?

産業用太陽光発電

ここまでは全量売電で収支を計算してきたが、今度は自家消費の例を見てみよう。条件は、下記の通りだ。

  • システム容量:65kW
  • 年間予想発電量:6万8000kWh
  • 25年 (※) 予想発電量:170万kWh 
  • ※太陽光パネルには10~25年間の保証が付いているものが多いため、ここでは25年使用を続けると想定する。

発電にかかる費用(25年分)

  • 太陽光発電設備導入費:1200万円
  • 夜間のパワコンにかかる電気代(25年間):55万円
  • 償却資産税:105万円
  • パワコンの交換費用(15年間):135万円

上記の合計は1495万円(税込)となる。

1495万円÷170万kWh(25年分の予想発電量)=8.794円/kWh
1kWhの電力量を得るためにかかるコストは約8.8円/kWh(税込)と計算できた。

これに対して、電力会社が提供している産業用電力の単価は15~17円/kWh程度である。つまり、太陽光発電の電力を自家消費するほうが安く電力を使えるのだ。

産業用太陽光発電の投資を始めるならシミュレーションが重要!正確に試算しよう

太陽光発電に投資をして、20年間安定した売電収入を得るためには、収支シミュレーションの計算を正確にすることが大切だ。シミュレーションに影響する要素も考慮して、納得できる投資をしよう。

くわえて、良心的な販売会社を見極めることも重要といえる。まずは、初期費用をおさえるためにタイナビNEXTで販売会社の一括見積をしてみてはいかがだろうか。