
再生エネルギーによる発電には、発電量や電力供給量に不安定な面があったことは否めない。しかし、デジタルグリッドという技術によって、この問題が解決できるようになる。
近年は地球温暖化などがもたらすという環境変化に対し、持続可能なビジネスを打ち出すことに価値が見出されはじめた。ESG投資に見られるような、社会的責任を果たす企業にはっきりとしたビジネスの流れが現れたのだ。
中でも再生エネルギー由来の電力を使うことは、通常の企業活動に影響を与えずに取り組める方法だ。そのために、再生エネルギー由来の電力をより使いやすくする仕組みが求められている。これを可能にする手段の一つとして、デジタルグリッドの技術が注目された。
この記事では、デジタルグリッドがもたらし得る影響などについて解説していこう。
デジタルグリッドとは
デジタルグリッドとは、元東京大学特任教授の阿部力也さんらが開発した「電気識別を可能にする」システムである。
デジタルグリッドの技術を活用すれば、インターネットで情報を送るのと同じように、電気のやり取りができるようになるのだ。
「誰に売った」「誰から買った」など、電力を融通しあった履歴を記録することも可能である。
つまり、デジタルグリッドによって、複数の利用者間で電力のやりとりができるようになる。低価格の電気を見つけて蓄電池に充電したり、再生エネルギー由来の電気を積極的に調達しやすくなるのである。
デジタルグリッドの仕組み
デジタルグリッドを大まかに説明すると、小規模な発電システムや蓄電池などの集合体で構成された電力システムである。従来の電力系統との最大の違いは、電力取引が細かく記録でき、遠隔制御もできることだ。
デジタルグリッドのキーデバイスに、電力の融通を可能にする「デジタルグリットルーター」、電力機器に外部信号を加えてルーターと連携制御を行う「デジタルグリッドコントローラー」などがある。
インターネットで情報を送受信するように、電気をやり取りできるのが最大の特徴だ。
この仕組みがもたらす効果は、小規模な発電能力をもつもの、そして特定の特徴をもつ電気を求める人にメリットがある。
デジタルグリッドのメリット
再生可能エネルギー由来の電力を融通し合うデジタルグリットには、さまざまなメリットがある。ここでは、4つのメリットについて紹介する。
電気を売買した履歴が記録できる
電気を売買した履歴が記録できるのがデジタルグリッドのメリットだ。
デジタルグリッドのキーデバイスである「デジタルグリッドルーター」にネットワークアドレスを設定し、さらにルーターの各端子がサブアドレスを保有することで、どのアドレスからどのアドレス宛に、どれだけの電力が送られたのかを記録できる。
再生可能エネルギー由来の電気を積極的に使用したい企業にとっては大きなメリットだ。
自由な電気の売買ができる
デジタルグリッドのメリットは、自由な電気の売買ができることが挙げられる。大手電力会社の電力系統と同期せずに接続できるため、売買する電気の価格はもちろん、どんなエネルギーで発電された電気かなど、電気の種類まで指定することができるのだ。
再生可能エネルギー由来の電力である証拠として活用できるほか、再エネ100%電力を柔軟にやり取りできる手段となる。
系統事故による被害を最小限にできる
電力会社から求められる電圧や周波数の制約から解放され、再生可能エネルギーの利用拡大に貢献できる。そんなデジタルグリッドは、系統事故による被害を最小限にできる点でより多くの人に貢献できるだろう。
デジタルグリッドの技術によって電力系統事故時の影響範囲が限定的になるため、系統事故の影響を受けにくく、被害を最小限にすることができる。
従来の大規模電力系統のみに依存しているシステムでは、系統事故が起きた際の被害は広範囲になりユーザー側では解決できない。
デジタルグリッドルーターは、大規模電力系統だけでなく、中小規模のエネルギーネットワークであるマイクログリッドにも接続できる。大規模電力系統で事故が起きた場合でも、マイクログリッドで電力を需給しあうことが可能なのだ。
電力料金の値下げが期待できる
電力料金の値下げが期待できるのも、デジタルグリッドのメリットだ。
送電網は、容量を超える電力量を流通させると、トラブルが起きるリスクがある。そのため、従来の電力網は最も大きな需要にあわせて作ることとなり、平常時の需要よりもだいぶ大きな規模にせざるを得ない。その設備費は電気料金に転嫁されるため、消費者は高めの電気料金を支払わなければならないのだ。
デジタルグリッドで分散型電源を活用できれば、こうまで大きな設備は必要ない。ユーザーにとって電力料金の値下げにつながることが期待できる。
デジタルグリッドは発展するか?
デジタルグリッドは今後、発展する可能性はあるのだろうか。WASSHA株式会社はデジタルグリッドの技術をベースに、「電力を量り売りする」というタンザニアの新ビジネスを生み出した。
電力の量り売りとは、モバイルマネーでプリペイドされた金額分だけ電力を供給する仕組みである。デジタルグリッドの「電力を遠隔操作する」という技術と、アフリカで広く普及する携帯電話間で送金を行う「モバイルマネー」の技術を組み合わせた。
小規模な設備からはじめられるデジタルグリッドは、電力インフラが未成熟な地域を中心に導入が進むと考えられている。
新しいビジネスチャンスの期待高まる!デジタルグリッド
「デジタルグリッド」は再生エネルギーの問題を解決するとともに、希望する価格や電気の種類を指定して、希望するタイミングで売買できる画期的な技術である。
デジタルグリッドの技術によって、複数の電力供給者と複数の消費者の間で自由な電気の売買ができるようになった。
今後この技術が広まると、電気が個人の資産として価値を持つようになる。そのため、デジタルグリッドの技術をベースに新たなビジネスチャンスが生まれる可能性が高いだろう。
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