
太陽光発電は、すでに「売電して儲けるもの」ではなくなりました。現在では、自社で使用する電力をまかなうことを目的とした自家消費型太陽光発電を導入する企業が増えてきています。
太陽光発電は、屋根が広く電力消費の多い工場や倉庫への設置に適しています。 しかし、設備や工事費といった初期コストが高いため、投資額に見合う効果が得られるかどうかが最大の懸念点となっています。
それでは、自家消費型太陽光発電を導入する事業者がなぜ増えているのでしょうか。 今回は、工場における自家消費用太陽光発電のメリットと、実際に導入している企業の事例についてご紹介します。
自家消費型の太陽光発電は何が良いのか?
自家消費型の太陽光発電を導入することで、どのようなメリットがあるのかを理解しておきましょう。
電力コスト上昇の対策に大きな効果

東日本大震災でダメージを受けた福島第一原子力発電所は、現在も廃炉作業が続いており、電力コストの上昇はすでに予定されていることです。
廃炉には莫大な費用がかかります。経済産業省は、2020年以降の原発廃炉費用の一部をすべての電力利用者で負担する方針を示しています。
さらに、急なコスト上昇もあり得る燃料費調整額や、年々上昇を続けている再生可能エネルギー賦課金も存在します。これらは電気使用量に応じて費用が変動する料金ですが、太陽光発電によって自家消費を進め、電気使用量そのものを減らすことで、こうした変動コストの上昇にも対応可能になります。
国内の電気料金は2021年から毎月のように値上がりしており、昨年の同時期と比べると請求金額が1.4倍〜1.5倍に増加しています。
つまり、上昇や変動を続ける電力コストへの対策として、電気の自家発電・自家消費が効果を発揮します。
電力コストが約6割になるメリット

産業用の電気料金(高圧)単価は、電力会社から購入した場合、電力会社にもよりますが、1kWhあたり約16円になります。
一方で、例えば工場の屋根に自家消費型の太陽光発電を設置した場合、その電力コストは1kWhあたり約10円になります。
※システム容量約65kWの設備で標準的な発電量が確保された場合のシミュレーション値
電力会社から電気を購入した場合と比べて、太陽光発電による自家消費は約6割の電力コストで電気を使用できるようになります。
太陽光発電を導入するには初期費用がかかります。それでも、この電力コストの差が10年、20年と続くことを考えると、今後さらに上昇が見込まれる電気料金に対して、自家消費のメリットは非常に大きいと考えられます。
工場・倉庫で太陽光発電の自家消費が増える背景とメリット
太陽光発電が積極的に導入されるようになった背景と、工場や倉庫にとっての主なメリットについて整理します。
工場で使用する多くの電気代を節約できる
太陽光発電による自家発電は、電力会社から購入する電力量を大きく減らすことができます。購入電力を抑えられれば、電力量料金も下げることが可能です。さらに、高圧・特別高圧の電気料金プランを利用している場合は、基本料金の削減にもつながります。
企業の電力契約(高圧・特別高圧)における基本料金について、あらためて確認しておきましょう。高圧・特別高圧の基本料金は、デマンド値(30分デマンド値)によって決まります。デマンド値とは、電力会社が測定した30分間の電気使用量をもとに算出される平均使用電力のことです。

高圧・特別高圧の基本料金は、当月を含めた過去11か月間の中で最も高かったデマンド値を基準に決まります。瞬間的に多くの電力を使用すると、そのデマンド値が反映され、基本料金が1年間高止まりする可能性もあります。
太陽光発電の電力を利用することで、電力会社からの供給に対する需要を抑えることができます。つまり、デマンド値の上昇を防ぐことにつながります。
太陽光発電に加えて蓄電池を併用すれば、さらに効率的です。休日や夜間など、電力消費が少ない時間帯に蓄電池に電力を貯めておき、使用量が多くなる時間帯にその電力を活用することで、購入電力のピークを抑えることができます。ピーク電力を抑えられれば、最大デマンド値も下がり、基本料金を安く抑えることが可能になります。
節税しながら設備投資できる

自家消費型太陽光発電を導入する個人事業主や中小企業は、「中小企業経営強化税制」を活用することで、即時償却または税額控除を選択することができます。
即時償却とは、設備費用などの経費を前倒しで一括計上できる制度です。
利益が大きいタイミングで太陽光発電を即時償却すれば、節税効果が期待できます。
資本金3,000万円未満の法人は10%、1億円未満の法人であれば7%の税額控除を受けることが可能です。
2018年度に発表された制度では、2017年4月1日から2019年3月31日までに設備を取得し、事業で使用した場合に対象となるとされています。
災害時の事業リスクに備えることができる

災害発生直後は、ライフラインが復旧しても電気の使用制限がかかる場合があり、電力使用量が多い事業では通常どおりの操業が難しくなることがあります。
こうした場面で、太陽光発電による自家消費で電源を確保できることは大きなメリットです。蓄電池を併用することで、エネルギー供給が不安定になりがちな夜間や雨天時でも安心して対応できます。
また、自家消費型太陽光発電や蓄電池の設備を、災害時に地域へ開放できるよう整備している事業者も存在します。自社の事業継続だけでなく、地域社会への貢献を通じて信頼性の向上にもつながる点がメリットです。
地球にやさしくクリーンな企業のイメージアップにつながる

太陽光発電の導入によって、企業イメージの向上が期待できます。地球温暖化は世界的な課題となっており、日本国内においても太陽光発電によって二酸化炭素の排出を削減できれば、大きなイメージアップ効果が見込めます。
近年は、環境問題に取り組むことが企業にとっては当然とされつつあります。こうした流れに対応できていない企業は、マイナスの印象を持たれるリスクもあります。企業規模にかかわらず、環境への貢献姿勢が問われる時代になってきています。太陽光発電による自家消費は、そうした取り組みの一つとして企業価値の向上につながるといえるでしょう。
工場に太陽光発電設備を導入するデメリットは?
工場に太陽光発電設備を導入する際は、メリットだけでなく、いくつかのデメリットもあることを踏まえて計画を立てていく必要があります。
導入費用の高さ
工場は一般的な住宅に比べて設置スペースが広くなるため、その分、導入費用が高額になりやすい点はデメリットと感じられるかもしれません。ただし、設置規模が大きくなれば発電能力も高くなり、初期費用の回収期間は短縮される傾向にあります。
規模が大きくなるほど電力の消費量も多くなるため、太陽光発電によって生み出した電気を自家消費することで、電力会社からの買電を削減することが可能です。 また、太陽光発電の寿命は一般的に25年から30年といわれています。
初期費用を回収した後も長期間にわたって運用を続けることで、得られる経済的なメリットは大きくなります。
メンテナンス費用が必要
太陽光発電は長期間にわたって運用する設備のため、定期的なメンテナンスが必要です。設置後も一定のタイミングで機器の状態を確認しておくことで、万が一トラブルが発生していても早期に発見できます。
定期的に適切なメンテナンスを実施していれば、故障による発電量への影響を最小限に抑えることが可能です。メンテナンスには一定の費用がかかりますが、安定した発電量を維持するためには欠かせないコストといえるでしょう。
日射量により発電量が変わる
太陽光発電は太陽の光を利用して電気をつくるため、天候によって発電量が変動します。工場の稼働状況によっては、太陽が出ていない時間帯に多くの電力が必要になるケースもあるでしょう。
このような場合は、日中に太陽光発電で発電した電力を蓄電池に貯めておくことで、安定した電力供給が可能になります。さらに、稼働時間をできるだけ日中に寄せるといった運用の工夫も、合わせて検討する価値があります。
発電出力が高圧(50kW)以上の太陽光発電所はキュービクルが必要
キュービクル(高圧受電設備)を導入している工場では、太陽光発電設備を設置する際にキュービクルとの接続が必要になります。送電設備であるキュービクルに、太陽光発電による送電分の容量が残っていない場合は、新たに追加するか、工事によって容量を増やす対応が求められます。
キュービクルを新たに導入する場合は、200万円以上の費用が発生する可能性があります。 ただし、第一種電気工事士が在籍する施工業者に依頼すれば、新規に追加しなくても対応できるケースがあります。業者を選ぶ際は、有資格者の在籍有無を事前に確認しておくことが重要です。
太陽光発電の需要が高まっている中で、施工業者の数も年々増加しています。
しかしながら、業者によって技術力や対応品質には差があり、太陽光発電に関するノウハウが不十分な業者も多く参入しています。専門知識と実績を持つ信頼できる業者であれば問題ありませんが、悪質な業者に依頼してしまうと施工不良などのリスクが発生するおそれがあります。
「タイナビNEXT」は、良心的な施工業者のみが登録されているため、施工不良などの心配なく依頼できます。
工場に太陽光発電設備を導入するときに確認すべきことは?
工場に太陽光発電設備を導入する際には、いくつかチェックしておきたい項目があります。導入を検討する段階から把握しておくことが重要です。
- 太陽光発電を自家消費するには、工場での電力消費量を正確に把握しておく必要があります。
電力消費量は、自社が契約している電力会社から提供されるデマンドデータ(平均使用電力量)を確認することで把握できます。
電力の使用時間帯や消費量を分析することで、自家消費に必要な太陽光発電設備のおおよその規模が分かります。専門知識を持つ業者に依頼すれば、より正確な分析が可能です。
- 工場の屋根に太陽光発電設備を設置する場合、建物が太陽光パネルや架台の重量に耐えられるかどうかを事前に確認しておく必要があります。
耐荷重を超える設備を載せると、屋根の耐久性に影響を及ぼし、雨漏りなどのトラブルが発生する可能性があります。
そのため、電気だけでなく建築に関する知識を持つ業者に相談することが重要です。
- 太陽光発電設備を設置するスペースについては、面積だけでなく、方角や角度といった要素も事前に確認しておきましょう。
太陽光発電の発電量は、設置面積が広いほど多くなりますが、パネルの設置方向や角度も発電効率に影響します。屋根の状態や周囲に遮るものがないかも併せて確認しておく必要があります。
- 自家消費型の太陽光発電設備には、国や自治体が提供している補助金や助成金制度があります。対象条件に合致するかどうかを事前に確認しましょう。
規模が大きくなりやすい工場の太陽光発電では、初期費用も高額になる傾向があります。制度に詳しい専門業者に相談し、補助金や助成金をうまく活用することで、コストを抑えることができます。
自家消費型太陽光発電の電気を工場へ送る方法

工場の屋根や敷地に自家消費型太陽光発電を設置して発電した電気は、自社で直接工場に送る方法と、PPAモデルを活用して供給する方法があります。
自社の敷地内に自家消費型太陽光発電を設置することで、未利用の土地を有効活用しながら収益を上げることが可能です。 自社で発電した電気を自社で工場に供給する方法であれば、太陽光発電の電力を自家消費できるため、電気料金の削減につながります。 工場の屋根や遊休スペースの広さに応じて太陽光パネルを設置できるため、その分メリットも大きくなります。
PPAモデルを利用して自家消費型太陽光発電の電気を工場へ供給する場合は、自社の屋根や土地に他社が発電設備を設置し、その電気を自社が購入する形になります。
この場合、設備の導入費用はかかりませんが、発電された電気を買い取る必要があるため、電気料金の支払いが発生する点はデメリットといえます。
自社所有モデルは、従来から採用されている自家消費型太陽光発電の一般的な形態として定着しつつあります。自社の土地に自社が所有する太陽光発電設備を設置し、発電した電力を自社で消費することで、買電コストが発生しない点も大きなメリットです。
自社所有モデルによって、自家消費型太陽光発電の電気を工場に供給し、コスト削減と収益性の向上を目指しましょう。
工場に自家消費型太陽光発電設備を設置するときの注意点

工場の屋根に太陽光パネルを設置する際には、太陽光発電に関する専門知識だけでなく、屋根の状態を正しく把握できる建築分野の知識も必要になります。
現状の電力消費量や使用状況、設置スペースの状態などを正確に把握する必要があるため、専門知識と実績を持つ施工業者を選ぶことが重要なポイントです。
施工業者を選ぶ際は、相場よりも極端に安い見積もりを提示する業者には注意が必要です。
また、実際よりも多く発電・売電できるといった、過度に都合の良い説明をする業者にも警戒が必要です。
必ず複数の業者から見積もりを取得し、内容を比較した上で判断するようにしましょう。
産業用太陽光発電の導入ガイド
産業用太陽光発電を導入するプロセスをステップバイステップガイドにまとめたので参考にしてほしい。計画から施工、運用や管理、利用後の撤去方法までの導入の流れを確認しよう。
【導入ガイド】
- 企画・立案
産業用太陽光発電事業をスムーズに進めるためには、設置予定エリアの自治体や地域住民の理解を得ることが重要です。 関連する法令を遵守しながら地域の状況を把握し、必要な対策を講じる必要があります。 土地や周辺環境の調査、土地選定、各種手続きを順を追って進めていきましょう。 地域との良好な関係構築のために、自治体と連携し、住民説明会などを通じて適切なコミュニケーションを取ることが求められます。
- 設計・施工
産業用太陽光発電設備の運転開始後も、長期にわたり安全かつ安定的な発電ができるよう、設計段階からしっかりと配慮することが必要です。 防災、環境保全、景観保全といった観点にも留意し、適切に設計・施工を行います。 設計は委託先の業者が法令を遵守しているかどうかを確認し、施工時には電波や反射光などが周囲に悪影響を与えないよう注意する必要があります。 また、保守点検や維持管理の体制と計画を策定し、記録として残しておきましょう。 落雷などの災害発生時には、設備の状況を確認したうえで感電など周囲への影響が出ないように適切に対応します。
- 運用・管理
太陽光発電を含む再生可能エネルギーは、「再エネ特措法」に基づいて、長期的かつ安定した運用と管理が求められます。 そのため、事業者は継続的に発電が行えるよう、設備を定期的に点検し、法令を遵守しながら保守・維持管理を行うことが大切です。
- 地域活用
産業用太陽光発電には、災害時に地域へ電力を供給したり、自家消費型の仕組みを活用して地域と連携した事業を展開する役割もあります。 そのため、2020年度以降のFIT制度では、自家消費型を前提とした地域活用要件が設けられています。
- 撤去及び処分
太陽光発電設備の運用終了後は、適切なリサイクル・リユースや廃棄処分を行う必要があります。 そのためには、運用期間中から廃棄費用を計画的に積み立て、撤去に備えておくことが求められます。
自家消費型太陽光発電を取り入れている工場の事例

これから導入を検討している事業者に向けて、工場で全量自家消費型太陽光発電を導入している企業の実際の取り組みをご紹介します。
自家消費型太陽光発電で自社初の試みを行うトーホー・北関東
「トーホー・北関東」は、業務用食品の卸売業を展開するトーホーグループの子会社です。
同社は約7,500万円を投資し、本社・宇都宮支店の屋根に1,036枚の太陽光パネルを設置しました。発電は2017年11月末から開始され、設置面積は約1,700平方メートルにのぼります。出力規模は約280kW、年間の想定発電量は約24万kWhです。
発電した電力はすべて自家消費として活用しており、自社施設で使用する電力の約20%をまかなう計画です。
水上太陽光発電で自家消費を行う太陽ホールディングス
太陽ホールディングスは、プリント配線板の開発・製造を手がける企業です。再生可能エネルギー事業を展開する子会社・太陽グリーンエナジーの施設として、水上太陽光発電所を開設しました。
2017年12月上旬には、隣接する工業団地内の調整池に「嵐山大沼水上太陽光発電所」を建設・稼働開始しています。初期投資費用は約8,600万円です。
発電した電力はすべて工場の運営に活用し、自家消費されています。出力規模は約318kWで、年間の想定発電量は約33万kWhを見込んでいます。
さらに、水上発電所の隣接地には子会社である太陽インキ製造の工場があり、この工場で使用する電力の約5%もまかなう計画です。
自家消費型で国内最大級の太陽光発電を導入するSUBARU
2018年11月、自動車メーカーのSUBARUは、群馬製作所「大泉工場」(群馬県大泉町)の遊水池に太陽光発電設備を導入することを決定しました。 この設備は自家消費型太陽光発電としては国内最大級の規模となっており、2019年度内の完成と稼働開始を予定しています。
発電設備の出力は5MW(メガワット)、年間発電量は5,000MWh(メガワット時)を見込んでいます。 発電した電力はすべて工場内で使用し、同工場の年間CO2排出量の約2%にあたる、約2,370トンの削減が可能とされています。
SUBARUでは、2017年に「SUBARU環境方針」を改訂し、企業活動を通じたCO2排出削減に積極的に取り組んでいます。 今回の取り組みは、2018年4月に開始した「とちぎふるさと電気」の導入に続くものです。SUBARUグループでは、工場やオフィスから排出されるCO2の削減を進めており、2030年度までに2016年度比で30%削減(総量ベース)を目標としています。
工場で経費を大幅削減!太陽光発電は自家消費がお得
電力消費量が多く、太陽光パネルを広く設置できる工場では、太陽光発電による自家消費によって大きなメリットが得られます。 今後の太陽光発電は、電力の売電から自家消費へと主軸が移りつつあります。
産業用太陽光発電をより良い条件で導入するためにも、「タイナビNEXT」を活用して、一括見積もりを取得してみることをおすすめします。
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